知的障害や精神障害、学習障害を持つ「貴世満の仲間達」は、学ぶスピードが遅く、同じことを何度も反復学習する必要があります。しかし、勉強したいという意欲と根気にかけては、人一倍の強い気持ちを持っています。 しかし、カリキュラム重視の学校教育の中では、そうした学習機会に恵まれず、社会生活に必要となる基礎的な能力も十分身に付けていない貴世満の人達が多く存在します。
彼らが必要としていることは何か。具体的には、読み書きや計算ができ、買い物などの社会生活を自立して行えるようになることです。 そこで弊社では、そうした基礎能力の習得をめざして貴世満の人達のための勉強会を毎週続けており、この活動を通じて、共存共栄の会社づくりに取り組んでいます。
人間は誰しも成長したいという欲求を持っています。長年、貴世満の仲間達と勉強会で読み書きや計算の学習に取り組むうち、彼らの間から飲食関係の店を運営したいという意欲ある者も出てきました。
柿千では、そうした彼らの熱意に応え、飲食店を開くために必要となる調理師免許の取得を一つの目標に掲げて、勉強を続けています。そうした努力が実を結び、毎週の漢字テストでは、毎回テストで満点を取る人も出るほど習熟、現在では漢検2級と5級の取得も視野に入っています。
勉強会をスタートしてから10年後の1994年7月。6人の貴世満の仲間が調理師試験を受験。結果、男性1人、女性1人が合格を果たすことができました。彼らの熱心な姿は、他の社員にとっても良い模範となり、食に携わる企業の一員として自らも免許を取りたいと勉強し続けています。
約10年前からスタートしたこの勉強会は、まず一人で日常の買い物に必要となる計算能力を高めることからはじまりました。学習法としては、「百ます計算」という、小学校の算数教育で用いられている計算ドリルを採用。縦10×横10のマス目の左端と上端にそれぞれ0から9の数字をランダムに並べ、それぞれ交差する「ます」に計算(加法、減法など)の答を記入します。パズル感覚も取り入れた反復学習を行うことで、貴世満の人達は意欲的に取り組むことができ、次第に効果が現れてきました。また、平仮名や漢字の読み書き能力向上を図るため、書き取り練習も行っています。
現在、当社では毎週土曜日の12時半から約1時間が、貴世満の人達のための勉強会の時間となっています。机に向かって計算ドリルや課題に取り組む姿は真剣そのもの。このように、真剣に、そして楽しく能力向上に取り組んでいます。
ある日の勉強会でのこと。調理師受験の参考書を読むために、1人が辞書を買ってきました。すると、翌週から我も我もと辞書を購入し、みな面白いと肌身離さず持ち歩いて辞書を引いています。そうして、辞書を参照しながら1冊の参考書を読み終えるまでに、2年半という月日を費やしました。その間、引き続けた辞書は厚くなり、書き込みで埋め尽くされた参考書はボロボロの状態になりました。ご家族に伺うと、みなさん家に帰ってもテレビを一切見ようともせず、一心不乱に漢字の書き取りに取り組んでいるそうです。
このように、資格取得という目標を持つことで、学習の励みとなるだけでなく、社会との新しいつながりを模索することが可能になりました。将来は、貴世満の仲間達だけで調理・接客などすべてを行う店舗の運営など、新たな夢に向かってチャレンジを続けていきます。
※2015年10月末現在、調理師免許取得者約3名